終身雇用制や年功序列で賃金が保証されていた時代には社員の会社への愛社心も高く、会社を訴えるような事例も現在に比べれば多くはありませんでした。 しかし、終身雇用が崩れ、正社員での入社が難しくなり、非正規社員の割合が高くなった現在では、社員が義務を全うしないが権利は主張するようになりました。愛社心や義理人情の関係にこだわらない若い世代が増え、思いもよらない要求をされることも日常茶飯事となりました。

例えば、平気で遅刻や早退を繰り返す人、何の相談もなく突然長期有給休暇を取る人、上司の指導をすぐにパワハラだと訴えたり、音信不通になってしまったり・・・。

もし、配転・退職・解雇や時間外手当、賃金・賞与などについてトラブルが発生した場合や、上記のような問題社員を雇ってしまったときに、就業規則に規定されていない処分を課せば、逆に会社が訴えられる危険性もあるのです。 就業規則で労働者の労働条件や遵守すべき職場秩序を明確にしておけば、ルール違反は一目瞭然なため、懲戒を課すことが可能になるのです。

強い組織にするためには、現場に即した就業規則を定めることが必要です。 労使トラブルを未然に防ぐ為にも、就業規則作成の義務が課されていない10人未満の会社であっても、就業規則という強い武器を作成することが良いと言えます。

会社を守る武器は就業規則です。就業規則は会社と社員の”契約”と解釈されています。裁判でも、就業規則の記載内容が判決に大きな影響を受けます。
「就業規則をきちんと整備していたら、会社に不利な判断が下されなくて済んだのに」というケースはよくあります。

社員とトラブルが起きたときに、真っ先に登場するのが労働基準法です。 ところが、労働基準法は、会社の義務（社員の権利）を定めた法律であるため、経営者にとっては、不利になるケースが多々あるのが現実です。
行政の提供しているモデル就業規則を利用して作ったり、他社の就業規則を借りてきて作ったり、そんな就業規則では会社を守ることはできません。逆に、問題が大きくなってしまうこともあるのです。

例として、休職を取り上げてみましょう。就業規則に、「私傷病による欠勤期間が２ヶ月に及んだときは休職を命じる」と規定されていたとします。 このときに、１ヶ月と２５日（休職を命じる直前まで）欠勤して、３日出勤して、また１ヶ月と２５日欠勤して、また３日出勤して、と欠勤と出勤を繰り返した場合は、どうなるのでしょうか？ 就業規則を確認して下さい。特に何も書いていなくて、曖昧になっていると、出勤する度に欠勤期間が振り出しに戻る（いつになっても休職を命じることができない）と、社員にとって都合の良いように解釈されます。

トラブルを避けるためには、１ヶ月以内に再度、同じ理由（傷病）で欠勤した場合は前後の欠勤期間を通算することを、就業規則に規定するべきです。社員の気持ちを察すると酷ですが、社員の健康を優先するためのやむを得ない措置と思います。 更に言うと、同じ理由（傷病）で欠勤した場合に限るのではなく、類似の理由（傷病）も含めておくべきです。他の併発した傷病で欠勤したときは、同じ理由（傷病）ではないと主張されることが考えられます。
このように飛び飛びで欠勤をするのは、精神疾患を患った社員によく見られます。最近は、精神疾患に関する相談が増えています。したがって、休職事由として別に、精神疾患により労務の提供が不完全なときを追加して、このような場合も休職を命じられるようにしておいた方が良いでしょう。
これを追加すれば、欠勤期間が続かなくても休職を命じられるようになります。 ただし、会社の判断だけで行うことは避けて、本人との合意（が望ましい）によるか、医師の診断書に基づいて行って下さい。中途半端に出勤して病状が悪化することを考えると、治療に専念させる方が大事で、本人にとっても望ましいことです。

未然に就業規則に必要事項を規定し、社員に就業規則を見せることで、トラブルを防止できます。つまり、規定内容次第で、会社の意思を反映させられることができるのです。 経営者の方に、「病気で欠勤と出勤を繰り返す社員がいたり、精神疾患で十分な仕事ができない社員がいたとすると、休職してもらいたいですか？」「治療に専念してもらった方が良いですか？」と尋ねると、大半の方は「休職してもらいたい」と答えられます。

しかし、実際の就業規則を見ると、そのようには規定されていません。何か問題が起きて初めて、就業規則の不備を知ることになります。 ここでは休職に関する問題を取り上げてみましたが、他の例として、次のような問題が起きたときに、あなたの会社の就業規則で対応できますか？会社の思い通りに規定されていますか？
実際の通勤経路が違っていて、不正に通勤手当を受け取っていた！
取引先の会社の機密情報を、社員が漏らしていた！
社員が行方不明になって、連絡が取れない！

専門家の目で就業規則を見ると、このような落とし穴がたくさん潜んでいます。会社としては当然こうなるだろうと思っていることでも、条文１つ１つの表現の仕方で、会社の思惑とはまったく違った結果になることもあります。

上記の例のように、将来起こるかもしれないトラブルを予測できれば、それを就業規則に取り込んで対応できます。そして、自分勝手な主張をする非常識な社員が現れても、会社の方針を正しく反映させた鉄壁の就業規則にしておけば、対抗できるのです。 そして、トラブルを予測するためには、労使間で起こった過去の裁判例が参考になります。裁判例には、労使間トラブルが山のようにあります。しかし、専門外の方が、過去の裁判例まで勉強することは現実的ではありません。

そこで、専門家の社会保険労務士に、就業規則の変更を依頼しようと思って見積もりを取ると、普通は20万円以上になります。社員の視点で作られたひな形就業規則では、非常識な社員に対抗するのは難しいのですが、専門家が作る就業規則は、経営者側　の視点から作成できるノウハウが詰まっているため、価値が高いのです。

専当事務所では、経営者の皆様とヒアリングを重ね、労使のトラブルを未然に回避するための会社の実情に合わせた就業規則をオーダーメードで作成します。 こんな就業規則は見直しが必要です。

尚、各種助成金の申請の際にも就業規則の添付が必要となりますので、作成しておくことが望まれます。